就労旅情

草が萌え 森が浮き 山が立ち上がる
雲は流れていった 風が運んでいった
たべものだけでは 生きてゆけない世の中
みんな流れていった 何するでもなく

生まれた地を去り 電車を乗り継ぎ
赤茶けた街を いったりきたりして
灰色の者達の洗礼を浴びた
この場所にいる自分に涙がこぼれた

ヒトはみないい大人になるとは限らない
いく月もの 雨に溶され 上野のブロンズ像になり
いく年もの 灰雪に削られ レールの敷石となる
灰色を青色と思って 本当に忘れてゆくのだろう

けむんだ空は私に尋ねた
ナニガシタクテ ココニキタノカ
私は答えなかった 答えもなかった
沈黙のままに 雲は闇へと散っていった

   (2003.3)