それでも人は

もう さわらないで下さい
夕暮の下(もと)
ほほえむあなたの息さえも
私には強く感じられるから
思うだけで閉ざされてしまうから
すべてが孤独に見ゆる日
荒涼たる秋の枝のように
一重(ひとえ)の風に奮われて
最後の一葉(いちよう)をも失ってしまうから

もう さわらないで下さい
黄昏の中
誇り高く見つめるあなたの視線さえも
私には痛く感じられるから
考えるだけで自らをさげすんでしまうから
すべてが陰鬱にみゆる日
病を負った木の葉のように
灰色の羽ですべてをおおい
一条の光さえも失ってしまうから

生きていることを後悔している
もう少年すらも見ることが出来ず
追憶にも浸れないこの者を
家族との写真さえも燃やしたのは私です
一枚一枚手に取って線香花火のように
朽ち果てた葉が水面を
押し流されてうずくまる
丸太や石にさえぎられ
いく層にでも重ね合う
そうやってしか生かされないのです

こんなにも後悔する私を
それでも人はいじめなければならないのか

   (2003.4)