火を放ったのは

火を放ったのは誰だ

冬の空気に、枝が張りそめ
霜柱のきしみに細毛がふるえる
野は焼かれ、田には黒煙が立つ
黒影は、私は白痴(ばか)だとささやく街人に思えた
そうだ、これは私の望んだものだ

ふるわれた灰は、次の獲物を探す
枝を結んでいたクモが、もやの中に落ち、その足を一足(ひとあし)ずつ焼いた
その足は、私の足だ みずから焼いたに違いない
火を放ったのは私ではない
幹の皮はただれ、森はほうきになった
流れはよどみ、井戸は枯れ、沸き上がる

すずやかに人は笑う、何も為していぬこの者を
舞う蝶々は笑う中を、灰でねばついた巣に吸い着く
もだえるくるしむ りんぷんの灰が私の上に降り注ぐ
いいきもちだ

すずしげなやつらを落せ、何も思わぬものをとらえろ
やつらは規則正しい生き物だ、捕らえれば標本になる
木の箱に入れてやろう最後くらいは
皮の服を着せてやろう、逃れぬように
やつらを焼いたのは、私だろうな、この標本をつくるために
なぜなら、私がそう望んだのだから

   (2003.4)