津軽富士見湖:北津軽郡鶴田町(1)

津軽富士見湖から岩木山


太宰治の小説「津軽」では、津軽の雪として「こな雪、つぶ雪、わた雪、みづ雪、かた雪、ざらめ雪、こほり雪」の7つがあげられている。津軽とは、青森市を含む青森県の西半分を言い、青森市弘前市黒石市五所川原市東津軽郡西津軽郡中津軽郡南津軽郡北津軽郡からなる地域を指す。(Wikipediaより)。今回は、その津軽地方の北津軽郡鶴田町へと出かけてきた。
鶴田町は、弘前市五所川原市の間にあり、弘前から深浦方面の五能線で40分程、五所川原の一つ手前の駅である。ちなみに、太宰治の出身地である金木町は、五所川原から津軽鉄道に乗り換え、さらに20分程進んだところにある。金木町には、太宰治記念館「斜陽館」があるのだが、今回は時間的な余裕が無いので、残念だが又の今度の機会に譲ることにする。
鶴田町に出かけるにはわけがある。以前に弘前に出かけたときに、弘前城から見た岩木山の姿が非常に美しく見えた。岩木山は単独峰で、弘前から見ると、平野の中に唯一つ、なだらかな裾野を延ばした雄大な山としてそびえる。高さは1625mの山とそんなに高くないが、「津軽富士」として古くから信仰を集めている山である。一方、鶴田町には津軽富士見湖と言う湖があり、湖に壮大な岩木山の姿を映すさまは、まさに「津軽富士見湖」の愛称どおりの美しさである、ということを聞いたのでぜひ行かねばと思い立ち寄ったしだいである。
鶴田町で電車を降りると観光案内がない。いや、案内板はあるのだが、どのぐらいで行けるのかのという案内がないのだ。津軽富士見湖行きのバスがないかとバスの時刻表を見ると、行くか行かないかの以前に、午後の時間帯はバスがない。タクシーも駅前に停まっておらず、しかたないのでとりあえず辺りを歩くことにする。最近は旅なれてきたせいか、行きたい場所を決めると、行ってから調べればいいといういい加減さが出てきた。これが今回は裏目に出た。やはり、現地への行き方は事前に調べなくてはいけない。料理でも旅でも、おいしい時を過ごすには、下ごしらえが必要だ。
幸いなことに、今年の夏以降の天気には珍しく晴れており、津軽の7つの雪のうち、どの雪も降っていない、また積もってもいない。今年は雪の降るのが遅いらしい。11月の中旬に米沢に出かけたときも、今年はまだ雪が降ってないんですよ、とさも珍しそうに現地の人が話してくれた。いいことなのか悪いことなのか、最近は地球温暖化が叫ばれているのであまりいいことではないらしい。夏は暑く、冬は寒く、季節が季節らしくないと地球はよくないということだろう。
雪について少し述べる。私は雪の降るところに住んでいるが、雪深いところには住んだことが無い。太宰は津軽の雪として7つの雪を述べたが、山形県新庄市に住む知人によると、雪の呼び方として全国的に呼びならわされているものが(地域による呼び方の違いを除いて)30通りあり、雪の種類としては90以上あるそうだ。新庄は豪雪地帯で雪に関する国の研究機関もあるとかで、そこに住む友人も雪には詳しい。(雪の里情報館
雪も降る時期により雪の状態が異なり、積もる雪と積もらない雪があるとか。また、北海道では雪が積もらなくて、北陸・東北の日本海側で雪が積もるわけとか(これらは、雪に含まれる水分の量の関係だそうである)。また、どうゆう状態になったら雪の本格的な準備をしなくてはいけないかを聞いたが、これは興味をひいた。
まず、最初は周りの山に雪が降るので山の頭が白くなる(山形は字の通り、多くの山に囲まれている)。しかし、すぐには本格的な雪にはならず、また山の雪もすぐに解ける。街にも雪が降ったりするが、まばらな雪が降る。そして、山が白くなったり消えたりを3回繰返すと、次に降る雪は本格的な雪で、雪へのしたくをしなくてはいけないということだそうだ。この3回を、どの山でどの具合を数えるかは地元の人の技なのだろう。こうゆうことは、地元の人の口から出なければ聞けない話なので面白い。
また、時期によって色々な大きさの雪が降ってくるのだが(細かい粒子のようなのもあり、ずしりと重たい粒もある。これは、雨にも同じことがいえる)、中には非常に大きい場合もあって、降ってくる雪を手に取ると、雪の結晶が見える場合もあると彼は言った。こういうような雪は、私は体験したことが無い、ぜひ一度そんな場所に住んでみたいものである。それに、実は東北のあちこちで味わえるそうだが、地吹雪も体験したことが無い。例えば、上述の金木町では、観光(金木町観光案内MADENY)として地吹雪体験ツアーを行っている、機会があればぜひ参加してみたい。
私達東北の人間にとって、雪と言うのは特に珍しいものではないが、九州とか四国とか沖縄の人にとっては珍しい物のようだ。以前に、九州に遊び出かけた後輩が、逆に東北に九州の人たちを呼ぶとかで、どこに行きたいかと聞いたところ、雪を味わってみたいと言われたそうである。見る場所が無いのか?とも取れるが、雪というものがスポーツとしてでなくとも、雪自体で観光になるということなのだろう。冬は農産物もシーズンではないし、農業中心の町では、豪雪体験ツアーを町おこしとして本格的に取り組んではいかがだろうか。これからの高齢者社会に向けても、雪をスポーツとしてでなくて、体験観光として考えることが有望なのではないだろうか。
話を戻して、津軽富士見湖まで歩いて進む。町の中心部を出ると、津軽富士見湖までの観光案内の看板が見えた、「湖まで4.5K」…。う〜む、これは今年日本一の富士山に登った私としてお財布を眺めた結果、歩く距離であると判断した。寒空の下、岩木山の向こう側、日本海のあたりから吹きつけてくる風がとても冷たい。出かける前に、詩人っぽいような帽子を買ったのだが、体裁ではなくて機能重視で、耳まで被う毛糸の帽子を買えばよかったと出かけてから思う。枯野を突き走る道路、ダンプと農業用の軽トラが通り過ぎていく。歩くのは私一人だけ、誰もすれ違わない。用水路に沿って生えるススキのみが、枯野に変化を添えている。絵になりそうだ、誰か私の姿を描いておくれ。詩にでもなりそうな感じだが、それどころではない、頬が寒さで張り固まり、耳が冷えて痛む。まだかまだかとひたすらに歩く。
やっとのことで、湖の周りの遊歩道の一地点へと到着する。どうも、寒さにやられすぎたようだ。なにか、感じる余裕が無い。頭を雲に覆われた岩木山が目の前に立ち上がる。湖には所狭しと水鳥たちが固まっている。バサバサバサと、いっせいにび立つ。風が強く、細かな波が立っている。ということは、岩木山が湖に映っているのは見ることができないと言うことだ。
映った岩木山の写真はあきらめて、遊歩道を歩いて、湖の反対側にある鶴の舞橋へと向かう。橋の名前の通り、この湖には丹頂鶴という種類の鶴がいる。湖にいる鶴が丹頂鶴かどうかはわからないが、見ることが出来、また飼育センターで確認することが出来た。かぼそい足、白と黒の羽、赤い頭、鶴の恩返しの話を思い出させる。
鶴の舞橋は、青森県の特産ヒバ材を使用した三連太鼓橋で、日本一の300mを誇る木の橋である。湖からの岩木山を背景とした長い木の橋が続く景色は美しい。夜になると、緑の照明で橋が湖に幻想的に映りさらにすばらしいらしい。本日の撮影スポットとして上の写真を撮影。残念ながら、カメラマンの腕により逆行の岩木山がうまく映らない。橋を渡ると、湖のほとりに売店等の建物が集まっていたが、すでにシーズンオフらしくどの店も閉まっている。私も我慢できずに足早に帰路へついた。さらに4.5kはとてもこたえた。実際には、駅向こうの宿屋まで6K歩くことになった。