横手城へと歩く:横手市(3)

当てが外れ時間が余ったので、観光名所の横手城へと向かう。市役所の前の公園では、2月の祭りに向けてかまくらを作っているようで、3mぐらい雪が盛り付けてある。ただし、中身が空いてないので入れない。横手城はその昔朝倉城といい、鎌倉以来威名を遠近にとどろかせ、仙北三郡を領有していた地頭頭の小野寺氏の居城であった。江戸時代には、秋田佐竹氏の支城として栄え、幕末においては、東北で唯一勤皇方であった佐竹氏の城として、仙台庄内の軍勢と衝突し炎上した。先ほどの後三年の役と戊辰の役という2つの壮絶な戦いの魂を沈めるために、お盆の送り盆まつりでは、各町内から集まった屋形舟の壮絶なもみ合いが行われるそうである。
城までは1.1kmと看板が出ている。歩くことにしたが、またもや道に迷った。私が方向音痴という問題ではなく、道が細かくてわかりにくいのである。おまけに路肩には雪が溜まっており、地元の人ならばわかるのだろうが、よそ者にはわからない。こういった観光案内は、その土地に不慣れな人を連れてきて、どこがわからないかを調べてくれればいいのだが。例えば雪に慣れてない沖縄の人とかを連れてきて、雪の積もった時に試してみると良い。結局、看板がなくなってしまったので間違えた思い、地元の人に道を聞くと、だいぶ行き過ぎたようである。わざわざ歩きにくい雪の中、無駄なことをした。
道々には、葉を残した針葉樹も裸の広葉樹も、みな一様に雪をかぶっている。そして、かぶっているといっても、蔵王樹氷のように、溶けたお化けのごとく一面丸く覆われているのではなく、枝沿いに雪が深く被さる様になっている。東北の樹木は一年に2度花を咲かす。一度は春などのその気に特有の受粉に関係する時であり、もう一度はこの雪の季節である。例えば、桜の木を見てみよう。桜の花は、一つ一つの小さな花をいくつも枝枝一面に咲かす。その美しさは、一つ一つの花の美しさというよりも、木全体が一つの花としての美しさである。
冬の樹木もこれに同じ。木の枝上方に白く、そして幹にまでうっすらと雪をつける。これは全体として一つの白い花を咲かせているのである。そして雪は、町全体に降る。積もり方の違いこそあれ、雪の降らない木などはない。桜吹雪もまた一つの桜の見所である、並木もまた同じ。風により枝が揺れ桜が舞い上がる。それは、桜の花びらよりもはるかに小さな花である雪も同じ。それらは微かな風に吹かれるたびに、光を伴って大地へと舞い降りる。また、回りの雪を巻き込み大きな音も立てたりもする。六花・六出花・むつのはななどは、雪の結晶の形をみた雪の別名である。もう一度言う。東北の樹木は、一年に2度花を咲かすのである。雪がないとしたら、花見は年に一度しか出来ない。
さて、横手城に向かうにしたがって、雪もかなり深くなってくる。1mぐらいは積もっているだろうか。もういやになりながら城に着いたが、この季節は誰も来ないらしく、中にも入れない。写真を撮って、さっさと町へと戻った。