平野政吉美術館:秋田市(2)

美術館の沿革「平野政吉は大地主の長男として秋田市に生まれ、若い頃は画家志望でもあり、美術への愛着は強く生涯を通じて美術品収集を行いました。特にフランスを中心に活躍した藤田嗣治とは交友もあり、貴重な代表作を所有しました。それらの作品を中心に、美術館として開館しました。」とある。
さっそく館内に入ると、藤田嗣治の代表作の一つである「秋田の行事」が眼前に迫る。この絵は、藤田が50歳ぐらいの時に、秋田市の平野政吉の米蔵で描いた絵であり、油絵で縦3.65m、横20.5mという巨大なキャンバスに、右から「秋祭り」「梵天」「竿燈」と祭りが続き「雪国での風土」のかまくらや雪だるまが描かれている。動的な祭りの絵と、雪の風土という静的な生活が描かれ、その絵の色彩は、空の青、大地の白、そして祭りの赤で鮮やかに表されている。
白地の雪の背景の中の人々などは、まじかで見ると立体感にあふれており、その中の人々の表情に注目すると、みな一様に口を閉じ、遠くを見据えるような眼で、きびしい顔つきしている。子供の口も閉まっていて、遊んでいるはずなのに笑みが感じられない。唯一対照的なのは、おどけた表情の雪だるまだけだ。雪の寒い中にいるからしかめっ面をしているのかと思いきや、祭りのほうでもみな表情は厳しい。口を開いている者から聞こえてくるものは、勇壮な祭りの掛け声だけのようである。この絵からは、この土地に根ざす猛々しさがヒシヒシと伝わってくる。
藤田の他の絵も見て回るが、どれもみな絵を見るほうにも厳しい姿勢が要求されるような、張り詰めるような絵が多い。絵画からは、この人の生き様のような物まで伝わってくるようであり、絵を描いて生きていくとはかくも厳しいものかと思った。私のような軟弱な人間では、とても相手の目を見て話すことが出来ない。