車内にて:八森町

不老不死温泉


まばらな民家の中を電車がひた走っている。雪原の寂しい風景には、なぜか「グリーン・グリーン」の曲がよく似合う。秋田音頭の「八森ハタハタ」で有名な、八森町の駅舎にて電車を待つ。もちろん無人駅であるが、ストーブが焚かれているので暖かい。これから深浦町不老不死温泉へと向かう。秋田ー八森間は、鉄道マニアの友人と共に乗っていたのだが、友人は五能線を堪能したいらしく、再び能代へと戻っていった。
最近書店で見かけた「鉄子の旅」という漫画によると、鉄道のマニアといっても色々種類がいるらしく、それが列車だったり、駅舎だったり、風景だったり、切符だったりするようだ。私の友人は、切符に凝っているらしく、合うたびに複雑な経由地の切符を見せられる。まあこちらとしては、何がいいのかさっぱりわからない。ちなみに鉄道への入れ込み様は、鉄分が濃いかどうかとして表される様だ。私はいささか貧血気味である。
電車が近づく時間となりホームへと向かうが、つまり屋根がないためホーム全体がすっかり雪に覆われていて、レールがなければ何かわからない。通常見える、ホームのコールタール色は埋まり、どこにも色を残していない。地元の中学生らも一緒に乗るようだが、電車で通わなければいけないほど、近くに学校がないのだろうか。
しかしこの列車、12湖を過ぎたあたりから本当にすごいところを走っていく。右手の山と左手の海の間が狭く、少し余裕の或るところに漁港の町が出来ており、列車はその間の町をつなぐように走るのである。場所によっては、窓から飛び降りると砂浜の海岸となるような箇所も見受けられる。晴れてきたとはいえお日様の姿は望めないが、景色が移り変わっていく中で夕日の沈むのなどを見るのは最高であろう。
目的の一つ前の駅のヴェスパ椿山からの光景には驚く。ヨーロッパ風の建物を配した観光地なのであるが、日が暮れた今となっては、雪原に建物を映し出す明かりと、クリスマスツリー?がきらきらと輝き、さながらサンタクロースの国の様になっている。外から見る分には、とても日本とは思えない。まあ実際に降りて店員と話すと、方言でも聞けて普通の宿になってしまうのかもしれないが。(詩「冬道程」