朝やけ

昨夜《ゆふべ》の眠りの よごれた死骸の上に
腰をかけてゐるのは だれ?
その深い くらい瞳から 今また
僕の汲んでゐるものは 何ですか?

こんなにも 牢屋《ひとや》めいた部屋うちを
あんなに 御堂《みだう》のやうに きらめかせ はためかせ
あの音楽はどこへ行つたか
あの形象《かたち》はどこへ過ぎたか

ああ そこには だれがゐるの?
むなしく 空《むな》しく 移る わが若さ!
僕はあなたを 待つてはをりやしない

それなのにぢつと それのベットのはしに腰かけ
そこに見つめてゐるのは だれですか?
昨夜の眠りの秘密を 知つて 奪つたかのやうに

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ルビは《》で示した。
底本:「立原道造詩集」白凰社(昭和40年)
底本の親本:「立原道造全集」角川書店(昭和38年)
初出:「暁と夕の詩」風信子叢書刊行、四季社発売(昭和12年