2005-02-26から1日間の記事一覧

朝やけ

昨夜《ゆふべ》の眠りの よごれた死骸の上に 腰をかけてゐるのは だれ? その深い くらい瞳から 今また 僕の汲んでゐるものは 何ですか? こんなにも 牢屋《ひとや》めいた部屋うちを あんなに 御堂《みだう》のやうに きらめかせ はためかせ あの音楽はどこ…

さまよひ

夜だ――すべての窓に 燈《ひ》はうばはれ 道が そればかり ほのかに明《あかる》く かぎりなく つづいてゐる……それの上を行くのは 僕だ ただひとり ひとりきり 何ものをもとめるとなく 月は とうに沈みゆき あれらの やさしい音楽のやうに 微風《そよかぜ》も…

眠りのほとりに

沈黙は 青い雲のやうに やさしく 私を襲ひ…… 私は 射とめられた小さい野獣のやうに 眠りのなかに 身をたふす やがて身動きもなしに ふたたび ささやく 失はれたしらべが 春の浮雲と 小鳥と 花と 影とを 呼びかへす しかし それらはすでに私のものではない あ…

溢れひたす闇に

美しいものになら ほほゑむがよい 涙よ いつまでも かはかずにあれ 陽は 大きな景色のあちらに沈みゆき あのものがなしい 月が燃え立つた つめたい!光にかがやかされて さまよひ歩くかよわい生き者たちよ 己《おれ》は どこに住むのだらう――答へておくれ 夜…

失なはれた夜に

灼《や》けた瞳《ひとみ》が 灼けてゐた 青い眸《ひとみ》でも 茶色の瞳でも なかつた きらきらしては 僕の心を つきさした 泣かさうとでもいふやうに しかし 泣かしはしなかつた きらきら 僕を撫《な》でてゐた 甘つたれた僕の心を嘗《な》めてゐた 灼けた…

真冬の夜の雨に

あれらはどこに行つてしまつたか? なんにも持つてゐなかつたのに みんな とうになくなつてゐる どこか とほく 知らない場所へ 真冬の雨の夜《よる》は うたつてゐる 待つてゐた時とかはらぬ調子で しかし帰りはしないその調子で とほく とほい 知らない場所…

眠りの誘ひ

おやすみ やさしい顔した娘たち おやすみ やはらかな黒い髪を編んで おまへらの枕もとに胡桃《くるみ》色にともされた燭台《しよくだい》のまはりには 快活な何かが宿つてゐる(世界中はさらさらと粉の雪) 私はいつまでもうたつてゐてあげよう 私はくらい窓…

小譚詩

一人はあかりをつけることが出来た そのそばで 本をよむのは別の人だつた しづかな部屋だから 低い声が それが隅の方にまで よく聞えた(みんなはきいてゐた) 一人はあかりを消すことが出来た そのそばで 眠るのは別の人だつた 糸紡ぎの女が子守の唄をうた…

やがて秋……

やがて 秋が 来るだらう 夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ 樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに あらはなかげをくらく夜《よる》の方に投げ すべてが不確かにゆらいでゐる かへつてしづかなあさい吐息《といき》にやうに…… (昨日でないばかりに それは明日…

或る風に寄せて

おまへのことでいつぱいだつた 西風《にしかぜ》よ たるんだ唄《うた》のうたひやまない 雨の昼に とざした窗《まど》のうすあかりに さびしい思ひを噛《か》みながら おぼえてゐた をののきも 顫《ふる》へも あれは見知らないものたちだ…… 夕ぐれごとに か…

暁と夕の詩

目次 Ⅰ 或る風に寄せて Ⅱ やがて秋…… Ⅲ 小譚詩 Ⅳ 眠りの誘ひ Ⅴ 真冬の夜の雨に Ⅵ 失なはれた夜に Ⅶ 溢れひたす闇に Ⅷ 眠りのほとりに Ⅸ さまよひ Ⅹ 朝やけ