2005-02-26 失なはれた夜に 詩 立原道造 灼《や》けた瞳《ひとみ》が 灼けてゐた 青い眸《ひとみ》でも 茶色の瞳でも なかつた きらきらしては 僕の心を つきさした 泣かさうとでもいふやうに しかし 泣かしはしなかつた きらきら 僕を撫《な》でてゐた 甘つたれた僕の心を嘗《な》めてゐた 灼けた瞳は 動かなかつた 青い眸でも 茶色の瞳でも あるかのやうに いつまでも 灼けた瞳は しづかであつた! 太陽や香のいい草のことなど忘れてしまひ ただかなしげに きらきら きらきら 灼けてゐた 目次に戻る