忘れてしまつて

深い秋が訪れた!(春を含んで)
湖《みづうみ》は陽《ひ》にかがやいて光つてゐる
鳥はひろいひろい空を飛びながら
色どりのきれいな山の腹《はら》を峡《たに》の方に行く

葡萄《ぶだう》も無花果《いちじく》も豊かに熟《う》れた
もう穀物の収穫ははじまつてゐる
雲がひとつふたつながれて行くのは
草の上に眺めながら寝そべつてゐよう

私は ひとりに とりのこされた!
私の眼はもう凋落《てうらく》を見るにはあまりに明るい
しかしその眼は時の祝祭に耐へないちひささ!

このままで 暖かな冬がめぐらう
風が木《こ》の葉を播き散らす日にも――私は信じる
静かな音楽にかなふ和《なご》やかだけで と

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ルビは《》で示した
底本:「立原道造詩集」白凰社(昭和40年)
底本の親本:「立原道造全集」角川書店(昭和38年)
初出:風信子叢書刊行、私家版(昭和12年