夏の弔ひ

逝《ゆ》いた私の時たちが
私の心を金《きん》にした 傷つかぬやう傷は早く愎《なほ》るやうにと
昨日と明日との間には
ふかい紺青《こんじやう》の溝がひかれて過ぎてゐる

投げて捨てたのは
涙のしみの目立つ小さい紙のきれはしだつた
泡立つ白い波のなかに 或る夕べ
何もがすべて消えてしまつた! 筋書きどほりに

それから 私は旅人になり いくつも過ぎた
月の光にてらされた岬々の村々を
暑い 涸《かわ》いた野を

おぼえてゐたら! 私はもう一度かへりたい
どこか? あの場所へ(あの記憶がある
私が待ち それを しづかに諦めた――)

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