相思

髪を洗へば紫の
小草《をぐさ》のまへに色みえて
足をあぐれば花鳥《はなどり》の
われに随ふ風情《ふぜい》あり

目にながむれば彩雲《あやぐも》の
まきてはひらく絵巻物
手にとる酒は美酒《うまざけ》の
若き愁《うれひ》をたゝふめり

耳をたつれば歌神《うたがみ》の
きたりて玉《たま》の簫《ふえ》を吹き
口をひらけばうたびとの
一ふしわれはこひうたふ

あゝかくまでにあやしくも
熱きこゝろのわれなれど
われをし君のこひしたふ
その涙にはおよばじな

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