2005-11-02 相思 詩 島崎藤村 髪を洗へば紫の 小草《をぐさ》のまへに色みえて 足をあぐれば花鳥《はなどり》の われに随ふ風情《ふぜい》あり 目にながむれば彩雲《あやぐも》の まきてはひらく絵巻物 手にとる酒は美酒《うまざけ》の 若き愁《うれひ》をたゝふめり 耳をたつれば歌神《うたがみ》の きたりて玉《たま》の簫《ふえ》を吹き 口をひらけばうたびとの 一ふしわれはこひうたふ あゝかくまでにあやしくも 熱きこゝろのわれなれど われをし君のこひしたふ その涙にはおよばじな 目次に戻る