木曾谿日記*5

十一月一日

  きみがはかばに
     きゞくあり
  きみがはかばに
     さかきあり

  くさはにつゆは
     しげくして
  おもからずやは
     そのしるし

  いつかねむりを
     さめいでゝ
  いつかへりこむ
     わがはゝよ

  あからひくこも
     ますらをも
  みなちりひぢと
     なるものを

  あゝさめたまふ
     ことなかれ
  あゝかへりくる
     ことなかれ

  はるははなさき
     はなちりて
  きみのはかばに
     かゝるとも

  なつはみだるゝ
     ほたるびの
  きみのはかばに
     とべるとも

  あきはさみしき
     あきさめの
  きみのはかばに
     そゝぐとも

  ふゆはましろ
     ゆきじもの
  きみのはかばに
     こほるとも

  とほきねむりの
     ゆめまくら
  おそるゝなかれ
     わがはゝよ

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ルビは《》で示した。
底本:「島崎藤村全集」筑摩書房(昭和56年)
初出:「一葉舟」春陽堂(明治31年)