2005-11-05から1日間の記事一覧

木曾谿日記*5

十一月一日 きみがはかばに きゞくあり きみがはかばに さかきあり くさはにつゆは しげくして おもからずやは そのしるし いつかねむりを さめいでゝ いつかへりこむ わがはゝよ あからひくこも ますらをも みなちりひぢと なるものを あゝさめたまふ こと…

亡友反古帖*4

春駒(断篇) 第一 門出 北風に窓閉されて朝夕の 伴《とも》となるもの書《ふみ》と炉火《いろり》、 軒下の垂氷《つらゝ》と共に心《むね》凍り、 眺めて学ぶ雪達磨、 けふまでこそは梅桜、 霜の悩みに黙しけれ。 霜柱きのふ解けたる其儘《そのまま》に 朝…

ながれみづ

きりぎりす

去年《こぞ》蔦の葉の かげにきて うたひいでしに くらぶれば ことしも同じ しらべもて かはるふしなき きりぎりす 耳なきわれを とがめそよ うれしきものと おもひしを 自然《しぜん》のうたの かくまでに 旧《ふる》きしらべと なりけるか 同じしらべに た…

白磁花瓶賦

みしやみぎはの白あやめ はなよりしろき花瓶《はながめ》を いかなるひとのたくみより うまれいでしとしるやきみ 瓶《かめ》のすがたのやさしきは 根ざしも清き泉より にほひいでたるしろたへの こゝろのはなと君やみん さばかり清きたくみぞと いひたまふこ…

銀河

天《あま》の河原《かはら》を ながむれば 星の力《ちから》は おとろへて 遠きむかしの ゆめのあと こゝにちとせを すぎにけり そらの泉《いづみ》を よのひとの 汲むにまかせて わきいでし 天の河原は かれはてて 水はいづこに うせつらむ ひゞきをあげよ …

鷲の歌

みるめの草は青くして海の潮《うしほ》の香《か》にゝほひ 流れ藻の葉はむすぼれて蜑の小舟にこがるゝも あしたゆふべのさだめなき大竜神《おほたつがみ》の見る夢の 闇《くら》きあらしに驚けば海原《うなばら》とくもかはりつゝ とくたちかへれ夏波に友よ…

春やいづこに

かすみのかげにもえいでし いとの柳にくらぶれば いまは小暗き木下闇《こしたやみ》 あゝ一時《ひととき》の 春やいづこに 色をほこりしあさみどり わかきむかしもありけるを 今はしげれる夏の草 あゝ一時の 春やいづこに 梅も桜もかはりはて 枝は緑の酒のこ…

おちば

この小冊子は過ぐる五とせの間、目に見、耳に聴き、心に浮びたることゞもを記しつけたるふみのうちより、とり集めたるものなれば、吾が幼稚なる生涯の旅日記ともいふべきなり。都を離れて遠く山水の間にあそび、さみしき燈火の影にものしたる紀行あり、また…

一葉舟*3

目次 序 おちば 春やいづこに 鷲の歌 銀河 白磁花瓶賦 きりぎりす ながれみづ 亡友反古帖 木曾谿日記