2005-11-07 小諸なる古城のほとり 詩 島崎藤村 小諸なる古城のほとり 雲白く遊子《いうし》悲しむ 緑なす【はこべ】は萌えず 若草も藉《し》くによしなし しろがねの衾《ふすま》の岡辺 日に溶《と》けて淡雪流る あたゝかき光はあれど 野に満つる香《かをり》も知らず 浅くのみ春は霞みて 麦の色わづかに青し 旅人の群《むれ》はいくつか 畠中の道を急ぎぬ 暮れ行けば浅間も見えず 歌哀《かな》し佐久の草笛《くさぶえ》 千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ 濁り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む 目次に戻る