鼠をあはれむ

星近く戸を照せども
戸に枕して人知らず
鼠《ねずみ》古巣《ふるす》を出づれども
人夢さめず驚かず

情《なさけ》の海の淡路島
通ふ千鳥の声絶えて
やじりを穿《うが》つ盜人の
寝息をはかる影もなし

長き尻尾《しりを》をうちふりつ
小踊りしつゝ軒《のき》づたひ
煤《すゝ》のみ深き梁《うつばり》に
夜をうかがふ古鼠

光にいとひいとはれて
白歯もいとゞ冷《ひや》やかに
竈《かまど》の隅《すみ》に忍びより
ながしに捜《さぐ》る鰺《あぢ》の骨

闇夜に物を透かし視て
暗きに遊ぶさまながら
なほ声無きに疑ひて
影を懼《おそ》れてきゝと鳴き鳴く

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