浦島

浦島の子とぞいふなる
遊ぶべく海辺に出でゝ
釣《つり》すべく岩に上りて
長き日を糸垂れ暮す

流れ藻《も》の青き葉蔭に
隠れ寄る魚かとばかり
手を延べて水を出《い》でたる
うらわかき処女《をとめ》のひとり

名のれ名のれ奇《く》しき処女《をとめ》よ
わだつみに住める処女《をとめ》よ
思ひきや水の中にも
黒髮の魚のありとは

かの処女《をとめ》嘆《なげ》きて言へる
われはこれ潮《うしほ》の児《こ》なり
わだつみの神のむすめの
乙姫といふはわれなり

竜《たつ》の宮荒れなば荒れね
捨てて来し海へは入らじ
あゝ君の胸にのみこそ
けふよりは住むべかりけれ

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