挿画附言

朔太郎兄
 私の肉体の分解が遠くないという予覚が私の手を着実に働かせてくれました。兄の詩集の上梓《じょうし》されるころ私の影がどこにあるかと思うさえ微笑されるのです。

 私はまず思っただけの仕事を仕上げました。この一年は貴重な付加でした。

 いろんな人がいろんなことを言う。それが私に何になるでしょう。心臓が右の胸でときめき、手が三本あり、指さきに透明文がひかり、二つの生殖器を有する。それが私にとってたった一つの真実。

 蒼白の芸術の微笑です。かの蒼空と合一するよろこびです。

恭吉  


傷みて なほも ほほゑむ 芽なれば いとど かわゆし
こころよ こころよ しづまれ しのびて しのびて しのべよ
  ■
むなしき この日の 涯《はて》に ゆうべを 迎へて 懼《く》るる
ひと日に ひと日を かさねて なに まち侘《わ》ぶる こころか
  ■
こよひも いたく さみしき かなしみに 包まり 寝ねむ
さはあれ まどの かなたに まどかに 薫《く》ゆる ゆうづき
  ■
痴愚の なみだを ぬぐひて わが しかばねに 見入れよ
あふげば 青空《そら》を ながるる やはらかき 雲の こころね
  ■
わかれし ものの かへりて 身につき まつはる うれしさ
すこやかよ すこやかよ 疾く かへりね わがやに

 月映 告別式より

恭吉  

目次に戻る