秘密

花蝋《はなろふ》もゆる御簾《みす》の影、
琴柱《ことぢ》をおいて少女子《をとめご》の
小指《をゆび》やはらにしなやかに、
絃《いと》より絃に転《てん》ずれば、
さばしり出る幻の
人《ひと》酔《よ》はしめの楽《がく》の宮、
ああこの宮を秘《ひ》め置きて
とこあらたなる琴の胸、
秘密ならずと誰か云ふ。

八千年《やちとせ》人の手《て》に染《そ》まぬ
神の世界の大胸に
深くするどくおごそかに
我が目うつれば、ちよろづの
詩《うた》は珠《たま》なし清水《しみづ》なし、
光の川と溢れくる。
ああこの水の美しく、
休《やす》む事なく湧き出《づ》るを
秘密なりとは誰か知る。

(九月十九日夜) 

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