ひとりゆかむ

日はくれぬ。
(愁《うれ》ひのいのち)
幻想《おもひ》の森に、いざや
ひとりゆかむ。
万有《ものみな》音をひそめて、
(ああ我がいのち)おもひでの
妙楽《めうがく》の夜《よる》あまき森。
  (夜のおもひ
   いのちのおもひ)

恋成りぬ。
(夢見のいのち)
忘我《われか》の森に、いざや
ひとりゆかむ。
花瞿粟《はなげし》にほひゆるみて、
(ああ我がいのち)つく息《いき》の
みどりうす靄ゆらぐ森。
  (夜のにほひ
   恋のにほひ)

恋破《や》れぬ。
(なげきのいのち)
祈《いの》りの森に、いざや
ひとり行かむ。
面影《おもかげ》、いのるまにまに
(ああ我がいのち)天《あま》の生《せい》
あらたに香《かほ》る愛の森。
  (夜のいのり
   いのちのいのり》

月照りぬ。
(あでなるいのち)
幻想《おもひ》の森に、いざや
ひとりゆかむ。
ほのぼの、月の光に
(ああ我がいのち)故郷《ふるさと》の
黄金《こがね》花岸《はなぎし》うかぶ森。
  (夜のいのち
   ああ我がいのち)

(甲辰五月十七日) 

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