花守の歌

夜はあけぬ。
生の迎《むか》ひに
心の住家《すみか》、園の
門《かど》を明《あ》けむ。
光よ、花に培《つち》かへ。
夢より夢の関《せき》据ゑて、
孤境《こきやう》の園《その》に花を守《も》る。

花咲くや、
愛の白百合、
愛はほのぼの、夢の
関《せき》に明《あ》けて、
霧吹く香《におひ》盞《さかづき》
我にそなへぬ、我が守る
幻、光、生《せい》の園。

はなやかに
黄金《こがね》よそほふ
姫の百人《もゝたり》、唇《くち》に
ほこり見せて、
ゆたかに門をよぎりぬ。──
それには似じな、わが胸の
あでなる夢に生《い》くる花。

日は闌《た》けぬ、
昼の沈黙《しづまり》。──
かかる日なりき、我は
ひとりゆきぬ、
新たに生《せい》や香ると。
守る孤境の園を出《で》て
黄金よそほふ市《いち》の宮。

いかめしき
門守《ともり》の姫ら、
我をこばみぬ、『園の
鍵《かぎ》を捨てよ。』
うつろの笑《ゑみ》や、宮居の
権力《ちから》うしろに、をどろきて
我はかへりき、わが園に。

つちかへば、
花はおのづと
天《あめ》にむかひぬ。これや
生の梯《はし》か。
ねむれば園は花楼《はなどの》、
霊の隠家《ゐんげ》よ。我が守る
小さき園生に我ぞ王《わう》。

やはらぎの
愛歌《あいか》わたるや、
花の大波《おほなみ》、園に
しらべ掻《ゆ》りて、
天《あめ》なる夢の故郷《ふるさと》
匂ひ海原《うなばら》さながらに、
光と透《す》きぬ孤境園《ひとりぞの》。

日はくれぬ
夢の守りに
心の住家《すみか》、いざや
門をささむ。
夜なく日なき園には
夢より夢の関《せき》据《す》ゑて、
天路《あまぢ》ひらかむ鍵《かぎ》秘めぬ。

夜よ降《を》りて
ものみな包め。
わが守《も》る園の門《と》には
暗は許《ゆ》りず。
我が園、今か世界に
光をつくる源《みなもと》の
孤境の園に我ぞ王《わう》なれ。

(甲辰五月十九日) 

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