天火盞

恋は、天照《あまて》る日輪《にちりん》の
みづから焼けし蝋涙《ろふるい》や、
こぼれて、地に盲《し》ひし子が
冷《ひえ》にとぢける胸の戸の
夢の隙《すき》より入りしもの。

夢は、夢なる野の小草、
草が天《あま》さす隙間《すきま》より
おちし一点《ひとつ》の火はもえて、
生野《いくの》、生風《いくかぜ》、生焔《いくほむら》、
いのちの野火《のび》はひろごりぬ。

日光《ひかげ》うけては向日葵《ひぐるま》の
花も黄金の火の小笠《をがさ》。
燬《や》かれて我も、胸もゆる
恋のほむらの天火盞《あまほざら》、
君が魂をぞ焼きにける。

(甲辰十一月十八日) 

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