壁画

破壊《はゑ》が住みける堂の中、
讃者《さんじや》群れにしいにしへの
さかえの色を猶とめて
壁画《かべゑ》は壁に虫ばみぬ。
おもひでこそは我胸の
かべゑなるらし。熄《き》えぬ火の
炎のかほり伝へつつ、
沈黙《しゞま》に曳《ひ》ける恋の影。

古《ふ》りぬと壁画こぼちなば、
たえぬ信《まこと》のいのちしも
何によりてか記《しる》すべき。
虫ばみぬとて思出の
糸をし断たば、如何にして、
聖《きよ》きをつなぐ天の火の
光に、かたき恋の戸に、
心の城を守るべき。

(甲辰十一月十八日)

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