2006-10-09 壁画 詩 石川啄木 破壊《はゑ》が住みける堂の中、 讃者《さんじや》群れにしいにしへの さかえの色を猶とめて 壁画《かべゑ》は壁に虫ばみぬ。 おもひでこそは我胸の かべゑなるらし。熄《き》えぬ火の 炎のかほり伝へつつ、 沈黙《しゞま》に曳《ひ》ける恋の影。 古《ふ》りぬと壁画こぼちなば、 たえぬ信《まこと》のいのちしも 何によりてか記《しる》すべき。 虫ばみぬとて思出の 糸をし断たば、如何にして、 聖《きよ》きをつなぐ天の火の 光に、かたき恋の戸に、 心の城を守るべき。 (甲辰十一月十八日) 目次に戻る