炎の宮

女《をみな》は熱にをかされて
終焉《いまは》の床に叫ぶらく、──
『我は炎《ほのほ》の宮を見き。
宮は、初めは生命の
緑にもゆる若き火の、
たちまちかはる生火渦《いくほうづ》、
赤竜《せきりゆう》をどる天塔《てんたふ》や。
見ませ今はた漸々《やうやう》に、
ああ我が夫《つま》よ、神々《かうがう》し
御燭《みあかし》に咲く黄の花と
もゆる炎の我が宮を。
やがては融《と》けて白光《びやくわう》の
雲輪《うんりん》い照る日とならば、
君をつつみて地の上に
天《あめ》の新宮《にひみや》立ちぬべし。』

『見ませ、』と云ふに、『何処《いづこ》に、』と
問《と》へば、『此処《こゝ》よ、』と、真白《ましろ》なる
腕《かひな》に抱く玉の胸。──
胸は、いまはの息深く、
愛の波、また死《し》の波の
寄せてはかへすときめきを
照らすは月の白き影。

(甲辰十一月十八日) 

目次に戻る