古瓶子

うてば坎々《かんかん》音さぶる
素焼《すやき》の、あはれ、煤《すす》びし古瓶子《ふるへいじ》、
注《つ》げや、滓《をり》まで、いざともに
冬の夜寒《よさむ》を笑はなむ。

今宵《こよひ》雪降る。世の罪の
かさむが如く、暇《ひま》なく雪は降《ふ》る。
破庵《はあん》戸もなき我なれば
妻なり、子なり、ああ汝《なんぢ》。

わらへよ、村酒一酔《そんしゆいつすゐ》は
寒さも貧《ひん》もをかさぬ我が宮ぞ。
去れ、去れ、涙、かなしみよ、
笑ふによろし古瓶子《ふるへいじ》。

世の罪つちに重《かさ》む如、
ふりぬ、つもりぬ、荒野の夜の雪。
雪は座《ざ》にまで舞《ま》ひ入りて
燭台《しよくだい》のともし尽《つ》きなんず。

酒早やなきか、それもよし、
灰となりぬる、寒炉《かんろ》の薪《まき》も、早や。
よし、よし、さらば古瓶子、
汝《なれ》を枕に世外《せぐわい》の夢を見む。

(甲辰十二月二十二日) 

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