2006-10-09 救済の綱 詩 石川啄木 わづらはしき世の暗の路に、 ああ我れ、久遠《くをん》の恋もえなく、 狂ふにあまりに小さき身ゆゑ、 ただ『死』の海にか、とこしへなる 安慰よ、真珠《またま》と光らむとて、 渦巻《うづま》く黒潮《くろしほ》下《した》に見つつ、 飛《と》ばむの刹那《せつな》を、犇《ひし》と許《ばか》り、 我をば搦《から》めて巌《いは》に据《す》ゑし ああその力《ちから》よ、信《しん》のみ手の 救済《すくひ》の綱《つな》とは、今ぞ知りぬ。 目次に戻る