暁霧

熟睡《うまい》の床をのがれ行く
夢のわかれに身も覚《さ》めて、
起きてあしたの戸に凭《よ》れば、
市の住居《すまゐ》の秋の庭
閉ぢぬる霧の犇々《ひしひし》と
迫りて、胸にい捲き寄る。

ああ清らなる夢の人、
溷《にご》る巷《ちまた》の活動《くわつどう》の
塵に立つべく、今暫し、
汝《な》が生命《せいめい》の浄《きよ》まりの
矜《ほこ》り思へと霧こそは
寄せて魂《たま》をし包むかな。

(甲辰十二月十二日) 

目次に戻る