2006-10-09 暁霧 詩 石川啄木 熟睡《うまい》の床をのがれ行く 夢のわかれに身も覚《さ》めて、 起きてあしたの戸に凭《よ》れば、 市の住居《すまゐ》の秋の庭 閉ぢぬる霧の犇々《ひしひし》と 迫りて、胸にい捲き寄る。 ああ清らなる夢の人、 溷《にご》る巷《ちまた》の活動《くわつどう》の 塵に立つべく、今暫し、 汝《な》が生命《せいめい》の浄《きよ》まりの 矜《ほこ》り思へと霧こそは 寄せて魂《たま》をし包むかな。 (甲辰十二月十二日) 目次に戻る