東京生活の終わりに(2)

山あい


(1)「東京生活の終わりに」から|

道について

私はここにいる間に幾度か、なぜ私が東北に帰りたがるのかを、同じ年代の人だけではなく上の方(かた)からも質問を受けました。「東京にいた方が収入も増えるし、仕事の幅も広がる。君は家族が東北にいるわけでもないし、帰る理由はないのではないか」と。

その際の返答として私は、「私は自然の風景が好きなのです。帰るところは東北でなくても良いのですが、空を見上げた時の何処かに山の姿が見えて、そこから先には自然の色と匂い広がっている、そういうところに私はいたいのです」、という様なことを話したと思います。

ところがこういう話というのは、なかなか理解されないものなのでしょう。「君は若いのに楽をしたがる」とか、「可能性があるなら何かを得るために努力すべきだ」とか、私はそういう形でまた質問を受けることになってしまい、緑響く私の風景はかき消されてしまうのが常でした。

その事について私が考えるところによると、皆さん私との行き違いが起こるのは、おそらく私がそこに何を見いだしているのか、私がどういう日々を求めているのかが皆さんには見えず、分からないためだと思います。ですから私は今日のこの最後の機会をもって、少しばかりですが私についての話をさせていただこうと思います。

(3)「草木と共に」へ>