東京生活の終わりに(4)

雪の花


(3)「草木と共に」から|

ヤンソンさんの言葉

その言葉とは、童話「ムーミン」の作者である「トーマス・ヤンソン」さんの言葉と、童話「銀河鉄道の夜」の作者である「宮沢賢治」さんの言葉です。

ムーミン童話については昔にアニメ化されたこともあり、皆さんご存知だと思いますが、ムーミン谷と呼ばれる雪深い北の世界を舞台に、カバのような容姿をしたムーミントロールムーミンパパ、ママのムーミン一家が、小さくておしゃべりなミイ、耳が長くて臆病者のスニフ、そして孤独を愛し旅を続けるスナフキンといった個性あふれる仲間達と共に、少し不思議で心温まる日々を送るお話です。

そしてこの童話について私がヤンソンさん借りようとするのは、この童話に登場するユニークな彼らが一体どういうモノ達なのか、に関する言葉です。それらは童話の中では語られておらず、童話の中における彼らの説明は、ムーミントロールムーミン族でスナフキンがムムリクだといった種族に関するもののみで、彼らが私達にとってどういうモノかという説明は出てきていません。

では一体、彼らは何なのかということですが、講談社文庫「ムーミン谷の十一月」巻末にそれに関する話が載っています。それはヤンソンさんが1971年に来日された時の事で、ヤンソンがテレビ番組に登場したおりに、司会者から「ムーミンって、動物なんですか、人間なんですか」と聞かれ、ヤンソンさんがスウェーデン語で、「Varekser(バーレスセル)」と答えたという話です。

巻末でその事を記述した訳者の鈴木徹朗さんによると、「Varekser(バーレスセル)」とは、日本語にすると、「存在するもの」という言葉で、哲学じみた難しい意味にしか訳しようがないそうです。しかしスウェーデン語だと、もっとありふれた言葉の響きで、「たしかに、いることはいるんだけれども、なんといいあらわしていいのかわからないもの」、というような時に使われる言葉だそうです。

私達がムーミン童話を子供の時に読んだ時には、そのことについてどう思ったのでしょうか。何も思わずに見ていたと言うかもしれませんが、それにしても彼らは何処かにいるような気がするし、何処で会えるのかは分からないけれど、何処か不思議な森や雲に迷い込んだ時には出逢えるのではと思ったのではないでしょうか。またそれらを感じたことも何処かであるのではないでしょうか。

しかしながらそういったことは、大人になると不思議と消えてしまうものですが、ヤンソンさんにはそういったバーレルセルなるものが、北欧フィンランドの森や湖の自然の中にずっと感じられていて、それらは物の陰からふっと現れてくるようであり、空想としてではなく生々しいものとして身近に存在していたのでないでしょうか。

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