東京生活の終わりに(5)

森の道


(4)「ヤンソンさんの言葉」から|

賢治さんの言葉

そしてこれと同じ様なことを、宮沢賢治さんもその童話集「注文の多い料理店」で語っています。この童話集には、「どんぐりと山猫」、「注文の多い料理店」、「月夜のでんしんばしら」などの作品が収録されていますが、そのタイトルでもある「注文の多い料理店」のお話は、

山に狩をしに来た若い二人の紳士が、獲物を獲れないままに空腹で山奥を彷徨った後に、「山猫軒」という西洋料理店を見つけて入るところから始まります。しかし紳士達は戸を開けてそのお店の奥へと進んでいくと、帽子を取れ、靴を脱げ、顔にクリームを塗れ、頭に香水をつけろなどの注文を次々とつけられてしまい、最後には危うく山猫にその身を食べられそうになる

という、何ともウィットの効いたお話です。宮沢賢治さんはこの童話集の序文において、

 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらつてきたのです。
 ほんたうに、かしはばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかつたり、十一月の山の風のなかに、ふるへながら立つたりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほり書いたままです。

と語っていて、自分が書いた作品とは、自分が暮らしているこの花巻の林や野はらを何気なく歩いている時に、ふと向こう側から風に吹かれてやってくる何かが自分に見せるものが、自分にとってはもうどうしてもそのとおりだという気がして、そのうえこの世界には本当にもうそんなことがどうしてもあるようでしかたがない。そういうものだと賢治さんは言っているのです。

(6)「少しだけ穏やかなところへ」へ>