2007-02-01から1ヶ月間の記事一覧

沖を眺望する

ここの海岸には草も生えない なんといふさびしい海岸だ かうしてしづかに浪を見てゐると 浪の上に浪がかさなり 浪の上に白い夕方の月がうかんでくるやうだ ただひとり出でて磯馴れ松の木をながめ 空にうかべる島と船とをながめ 私はながく手足をのばして寝こ…

寝台を求む

どこに私たちの悲しい寝台があるか ふつくりとした寝台の 白いふとんの中にうづくまる手足があるか 私たち男はいつも悲しい心でゐる 私たちは寝台をもたない けれどもすべての娘たちは寝台をもつ すべての娘たちは 猿に似たちひさな手足をもつ さうして白い…

薄暮の部屋

つかれた心臓は夜《よる》をよく眠る 私はよく眠る ふらんねるをきたさびしい心臓の所有者だ なにものか そこをしづかに動いてゐる夢の中なるちのみ児 寒さにかじかまる蠅のなきごゑ ぶむ ぶむ ぶむ ぶむ ぶむ ぶむ。 私はかなしむ この白つぽけた室内の光線…

幻の寝台

凡例

一。第一詩集『月に吠える』を出してから既に六年ほど経過した。この長い間私は重に思索生活に没頭したのであるが、かたはら矢張詩を作つて居た。そこで漸やく一冊に集つたのが、この詩集『青猫』である。 何分にも長い間に少し宛書いたものである故、詩の情…

◎ 私の情緒は、激情《パツシヨン》といふ範疇に属しない。むしろそれはしづかな霊魂ののすたるぢやであり、かの春の夜に聴く横笛のひびきである。 ある人は私の詩を官能的であるといふ。或はさういふものがあるかも知れない。けれども正しい見方はそれに反対…

青猫

目次 序 凡例 幻の寝台 薄暮の部屋 寝台を求む 沖を眺望する 強い腕に抱かる 群集の中を求めて歩く その手は菓子である 青猫 月夜 春の感情 野原に寝る 蠅の唱歌 恐ろしく憂鬱なる 憂鬱なる桜 憂鬱なる花見 夢にみる空家の庭の秘密 黒い風琴 憂鬱の川辺 仏の…