雪のあとの空を思ふ

まだ その島は見えない
雪を振りおえた雲は切れ間に、白い空を見せる
薄光に照らされた林は、幹で雪をふるい落とし
結晶でおおわれた葉は、海よりも深い青色に染まった手をこすり合わせている
移ろいゆく空の中で、消炭色(けしずみいろ)の雲が枝にひっかかっては霧散しはふれていった

白井透き間が淡く、追憶の夏へと広けていく
草木は青々と蒸し、その息を燃え上がらせ
瓦解した茶色い山肌を、焼きながら空へと登ってゆく
その熱気をつつみこむくもが、高くかかっている
渦を巻き、風で取り込み、そそり立つ
脈々とした雲が 私に呼びかけていた
雲は失われた記憶を宿し空を回る
石や土、風と鳥、森と人のようなもの
満たされ、舞い上り、湿潤さの中に
境界をなくした物が、持っていた時を
久しく 失う

時のことを知っているのは
最高の初夏地を没落し、叫び
大地さえも我を見限り、たたきつけ
手足さえもはばたきを忘れ、麻痺する
とらわれず、何も 溶け合う

花より前に枯れてるような
種より先に芽の出るような
さがしても見つからないその時を
求めるものは忘れ 無に消えてゆく

   (2003.4)