2004-07-25 自分の生い立ち 詩 室生犀星 僕はあるところに勤めてゐた 僕は百人の人人と 朝ごとの茶をのんだ 僕は色の白い少年であつた みんな頬《ほほ》の紅《あか》い僕を愛した 僕は冬も夏も働きつづめた そのころ僕は本を読んだ 僕の忍耐は爆発した 僕は勤めさきを飛び出した 父も母ももう死んでゐた 僕はほんとの父と母とを呪《のろ》うた もう併《しか》しどこにもその人らはゐなかつた