よく見るゆめ

僕は気がつくと裸《はだか》で
ひるま街を歩いてゐたのであつた
こんなことはあるべき筈《はず》ではないと
手をやつて見ると何も着てゐない
何といふ恥かしいことだ
僕は何か着るものがないかと
往来《わうらい》を見まはしたけれど
ボロ切《ぎ》れ一つ落ちてゐなかつた
自動車の波濤《はたう》は
明るい日ざしの下に街とともに動いてゐた
僕はくらい小路に逃げ込んだ
やはりその小路にも疎《まば》らに人は通つてゐた
みんな不審さうに僕の方を見てゐた
警官でも来たら大変だと思つた
しかし着るものがない
今はからだ一つしかない
世の中の人はみんなああやつて着てゐる
裸で居るのは僕ひとりだ
僕はどうすれば着れるのだ
とある軒下に佇つてぼんやり考へてゐた
たれか知人でも通らないかと
いやしい心を叱りながらも
やはりそれを求めてゐた
だれも通らなかつた
かまはない
裸で歩いてやれと思つた
自分は大胆に大きく
自分の踏むべき土を踏んで行つた
はげしい往来へ出て行つたけれど
ふしぎに人人は咎《とが》めなかつた
人人は安心したやうな目つきで
自分を眺めた