何故詩を書かなければならないか

自分は何故《なにゆゑ》詩を書かずに居られないか
いつも高い昂奮《かうふん》から
詩を思はずに居られないか
自分を救ひ
自分を慰め
よい人間を一人でも味方にするためか
詩を書いてゐると
餓死《がし》しなければならない日本
この日本に
新しい仕事をするため
父母《ふぼ》をにへにし
兄弟にうとまれ
世の中よりはのらくらものに思はれ
いつも不適なる孤独に住み
毎日毎日仕事をしてゐる私ども
善くならうとする私ども
あらしが起《おこ》り
波立ち
自分らの足もとを掻《か》つさらつても
むすんだこころは離れない
飢《う》ゑと寒さとは
いつもやつて来るけれど
吾吾《われわれ》は餓死しない
生きてゆくことの烈《はげ》しさよ
自分だちが詩をかくことは
生きてゆくことと同じだ