2004-12-04 蟹に 詩 石川啄木 潮《しほ》満ちくれば穴に入《い》り、 潮落ちゆけば這《は》ひ出《い》でて、 ひねもす横に歩むなる 東の海の砂浜の かしこき蟹《かに》よ、今此処《ここ》を、 運命《さだめ》の波にさらはれて、 心の龕《づし》の燈明《みあかし》の 汝《なれ》が眼よりも小《ささ》やかに 滅《き》えみ明るみすなる子の 行方《ゆくへ》も知らに、草臥《くたび》れて、 辿《たど》り行くとは、知るや、知らずや。