蟹に

潮《しほ》満ちくれば穴に入《い》り、
潮落ちゆけば這《は》ひ出《い》でて、
ひねもす横に歩むなる
東の海の砂浜の
かしこき蟹《かに》よ、今此処《ここ》を、
運命《さだめ》の波にさらはれて、
心の龕《づし》の燈明《みあかし》の
汝《なれ》が眼よりも小《ささ》やかに
滅《き》えみ明るみすなる子の
行方《ゆくへ》も知らに、草臥《くたび》れて、
辿《たど》り行くとは、知るや、知らずや。