浮雲

小さきモノの震え 霜の檻をつくる
さめた冬空に 一つの窓

ある者は足が動かず
ある者は目が見えない

霧の先では浮かぶ 常世の鱗雲
目の見えぬ農夫 霜枯れた畑
はかなきブドウの種を
いま一つ蒔く その上を……
声の出せぬスズメ 種を拾った
固まる土へ 口を入れて

人の身にこの世は いくつ足りないモノで
わずかに蒔いた種を 拾うモノは誰か

空に宿る雲達 分かれるのが定めか
足の動かぬ絵描き 枠の中の景色
焼けた空の紅を
キャンバスに重ねた その先へ……
手に届かぬモノは 空の下へと落ち
眠りに落ちる腕は 霞のみつかむ

人はいつも一人だ
持ち合わせたモノで生き 霧で大地を探る
腕で草をつかみ 這いて進んでゆく

しかしてこの 悲しみを
悲しみを統べるモノは何か……

 (2005.3)