2005-11-02 望郷 詩 島崎藤村 寺をのがれいでたる僧のうたひし そのうた いざさらば これをこの世のわかれぞと のがれいでゝは住みなれし 御寺《みてら》の蔵裏《くり》の白壁《しらかべ》の 眼にもふたゝび見ゆるかな いざゝらば 住めば仏のやどりさへ 火炎《ほのほ》の宅《いへ》となるものを なぐさめもなき心より 流れて落つる涙かな いざゝらば 心の油濁るとも ともしびたかくかきおこし なさけは熱くもゆる火の こひしき塵《ちり》にわれは焼けなむ 目次に戻る