松島瑞巌寺に遊び葡萄栗鼠の木彫を観て

舟路《ふなぢ》も遠し瑞巌寺
冬逍遙《せうえう》のこゝろなく
古き扉に身をよせて
飛騨《ひだ》の名匠《たくみ》の浮彫《うきぼり》の
葡萄のかげにきて見れば
菩提《ぼだい》の寺の冬の日に
刀《かたな》悲《かな》しみ鑿《のみ》愁《うれ》ふ
ほられて薄き葡萄葉の
影にかくるゝ栗鼠《きねずみ》よ
姿ばかりは隠すとも
かくすよしなし鑿《のみ》の香《か》は
うしほにひゞく磯寺《いそでら》の
かねにこの日の暮るゝとも
夕闇かけてたゝずめば
こひしきやなぞ甚五郎

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