2005-11-02 初恋 詩 島崎藤村 まだあげ初《そ》めし前髪《まへがみ》の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛《はなぐし》の 花ある君と思ひけり やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは 薄紅《うすくれなゐ》の秋の実《み》に 人こひ初《そ》めしはじめなり わがこゝろなきためいきの その髪の毛にかゝるとき たのしき恋の盃《さかづき》を 君が情《なさけ》に酌《く》みしかな 林檎畑の樹《こ》の下に おのづからなる細道《ほそみち》は 誰《た》が踏みそめしかたみぞと 問ひたまふこそこひしけれ 目次に戻る