ひとり林に……

山のみねの いただきの ぎざぎざの上
あるのは 青く淡い色 あれは空
空のかげに かがやく日 空のおくに
ながれる雲……私はおもふ 空のあちこちを

夏の日に咲いてゐた 百合の花も ゆふすげも
薊(あざみ)の花も かたい雪の底に かくれてゐる
みどりの草も いまはなく 梢の影が
葵色の こまかい線を 編んでゐる

ふと過ぎる……あれは頬白 あれは鶸(ひは)!
透いた林のあちらには 山のみねのぎざぎざが
ながめてゐる 私を 私たちを 村を――

すべてに 休みがある ふかい息をつきながら
耳からとほく 風と風とが ささやきかはしてゐる
――ああ この真白い野に 蝶を飛ばせよ!……