旅人の夜の歌…

    FRAULEIN A.MUROHU GEWIDMET

降りすさむでゐるのは つめたい雨
私の手にした提灯《ちやうちん》はやうやく
昏《くら》く足もとをてらしてゐる
歩けば歩けば夜は限りなくとほい

私はなぜ歩いて行くのだらう
私はもう捨てたのに 私を包む寝床《ねどこ》も
あつたかい話も燭火《ともしび》も――それだけれども
なぜ私も歩いてゐるのだろう

朝が来てしまつたら 眠らないうちに
私はどこまで行かう…かうして
何をしてゐるのであらう

私はすつかり濡《ぬ》れとほつたのだ 濡れながら
悦ばしい追憶を なほそれだけをさぐりつづけ…
母の あの街の方へ いやいや闇をただふかく