荒磯

行きかへり砂這《は》ふ波の
ほの白きけはひ追ひつゝ、
日は落ちて、暗湧き寄する
あら磯の枯藻《かれも》を踏めば、
(あめつちの愁《うれ》ひか、あらぬ、)
雲の裾ながうなびきて、
老松《おいまつ》の古葉音《ふるばね》もなく、
仰《あふ》ぎ見る幹《みき》からびたり。
海原を鶻《みさご》かすめて
その羽音波の砕けぬ。
うちまろび、大地《おほぢ》に呼べば、
小石なし、涙は凝《こ》りぬ。
大水《おほみづ》に足を浸《ひた》して、
黝《くろ》ずめる空を望みて、
ささがにの小さき瞳《ひとみ》と
魂《たま》更に胸にすくむよ。
秋路《あきぢ》行く雲の疾影《とかげ》の
日を掩《おほ》ひて地《ち》を射《ゐ》る如く、
ああ運命《さだめ》、下《を》りて鋭斧《とをの》と
胸の門《かど》割《わ》りし身なれば、
月負《お》ふに痩《や》せたるむくろ、
姿こそ浜芦《はまあし》に似て、
うちそよぐ愁ひを砂の
冷たきに印《しる》し行くかな。

(癸卯十二月三日夜) 

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