暮鐘

聖徒《せいと》の名を彫《ゑ》る伽藍《がらん》の壁に泌《し》みて
『永遠《とは》なる都《みやこ》』の滅亡《ほろび》を宣《の》りし夕、
はたかの法輪《ほうりん》無碍《むがい》の声をあげて
夢呼《よ》ぶ宝樹の林園《りんえん》揺《ゆ》れる時よ、
何らの音をか天部《てんぶ》の楽《がく》に添へて、
暮鐘よ、ああ汝《なれ》、却初《ごふしよ》の穹《そら》に鳴れる。
天風《てんぷう》二万里地《ち》を吹き絶《た》えぬ如く、
成壊《じやうゑ》の八千年《やちとせ》今猶ひびきやまず。

入る日を送りて、夜の息《いき》さそひ出でて、
栄光聖智《えいくわうせいち》を無間《むげん》に葬《はふむ》り来て、
青史《せいし》の進みと、有情《うじやう》の人の前に
永劫《えいごふ》友なる『秘密』よ、ああ今はた、
詩歌《しいか》の愁ひに素甕《すがめ》の澱《をり》と沈み
夢濃《こ》きわが魂《たま》『無生《むせい》』に乗せて走れ。

(甲辰三月十七日) 

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