暁鐘

蓮座《れんざ》の雲渦《くもうづ》光の門《かど》に靉《ひ》くや、
万朶《ばんだ》の葩《はなびら》黎明《あさけ》の笑《ゑみ》にゆらぎ、
くれなゐ波なす桜の瑞花蔭《みづはなかげ》、
下枝《しづえ》の夢吹く黄金の風に乗りて
ひびくよ、暁鐘《げふしやう》、──無縫《むほう》の天領綸《あまひれ》ふり
雲輦《うんれん》音なく軋《きし》らす曙《あけ》の神が
むらさき紐《ひも》ある左手《ゆんで》の愛の鈴《すゞ》の
余韻《なごり》か、──朗《ほが》らに高薫《かうくん》乱《みだ》し走る。

見よ今、五音《ごいん》の整調《せいちやう》流れ流れ
光の白彩《しらあや》しづかに園に撒《ま》けば、
(浄化《じやうげ》の使命に勇みて、春の神も
袖をや揺《ゆ》りけめ、)綾雲《あやぐも》融《と》くる如く、
淡色《あはいろ》焔《ほのほ》と枝毎かぜに燃《も》えて、
散る花繚乱満地《りやうらんまんち》に錦《にしき》延《の》べぬ。

(甲辰三月十七日) 

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