啄木鳥

いにしへ聖者《せいじや》が雅典《アデン》の森に撞《つ》きし、
光ぞ絶えせぬ天生《てんせい》『愛』の火もて
鋳《ゐ》にたる巨鐘《おほがね》、無窮のその声をぞ
染めなす『緑《みどり》』よ、げにこそ霊の住家《すみか》。
聞け、今、巷《ちまた》に喘《あへ》げる塵《ちり》の疾風《はやち》
よせ来て、若《わか》やぐ生命《いのち》の森の精《せい》の
聖《きよ》きを攻《せ》むやと、終日《ひねもす》、啄木鳥《きつゝきどり》、
巡《めぐ》りて警告《いましめ》夏樹《なつぎ》の髄《ずゐ》にきざむ。

往《ゆ》きしは三千年《みちとせ》、永劫《えいごう》猶すすみて
つきざる『時』の箭《や》、無象《むしやう》の白羽《しらは》の跡《あと》
追《お》ひ行く不滅の教《をしへ》よ。──プラトー、汝《な》が
浄《きよ》きを高きを天路《てんろ》の栄《はえ》と云ひし
霊をぞ守りて、この森不断《ふだん》の糧《かて》、
奇《くし》かるつとめを小《ちい》さき鳥のすなる。

(癸卯十一月上旬) 

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