白羽の鵠船

かの空みなぎる光の淵《ふち》を、魂《たま》の
白羽《しらは》の鵠船《とりぶね》しづかに、その青渦《あをうづ》
夢なる櫂《かひ》にて深うも漕《こ》ぎ入らばや。──
と見れば、どよもす高潮《たかじほ》音匂ひて、
楽声《がくせい》さまよふうてなの靄《もや》の虛《きぬ》を
透《す》きてぞ浮きくる面影、(百合姫《ゆりひめ》なれ)
天華《てんげ》の生襞《いくひだ》【さや】*1々《さやさや》あけぼの染《ぞめ》、
常楽《じやうげふ》ここにと和《やは》らぐ愛の瞳《ひとみ》。

運命《さだめ》や、寂寥児《さびしご》遺《のこ》れる、されど夜々の
ゆめ路《ぢ》のくしびに、今知る、哀愁世《かなしきよ》の
終焉《をはり》は霊光《れいくわう》無限の生《せい》の門出《かどで》。
瑠璃水《るりすゐ》たたえよ、不滅の信《しん》の小壷《こつぼ》。
さばこの地に照る日光《ひかり》は氷《こほ》るとても
高歓《かうくわん》久遠《くをん》の座《ざ》にこそ導《みちび》かるれ。

(癸卯十一月上旬) 

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*1:「たまへん」に「倉」