黄金幻境

生命《いのち》の源《みなもと》封じて天《あめ》の緑《みどり》
光と燃え立つ匂ひの霊の門《と》かも。──
霊の門《と》、げにそよ、ああこの若睛眸《わかまなざし》、
強き火、生火《いくひ》に威力《ちから》の倦弛《ゆるみ》織《を》りて
八千網《やちあみ》彩影《あやかげ》我をば捲《ま》きしめたる。──
立てるは愛の野、二人《ふたり》の野にしあれば、
汝《な》が瞳《め》を仰《あふ》ぎて、身は唯《たゞ》言葉もなく、
遍照《へんじやう》光裡《くわうり》の焔の夢に酔《ゑ》ひぬ。

見よ今、世の影慈光《じくわう》の雲を帯びて
輾《まろが》り音なく熱野《ねつや》の涯を走る。
わしりぬ、環《めぐ》りぬ、ああさて極まりなき
黄金《わうごん》幻境《げんきやう》! かくこそ生《せい》の夢の
久遠《くをん》の瞬《またゝ》き進みて、二人すでに
匂ひの天《あめ》にと昇華《しやうげ》の翼《つばさ》振《ふ》るよ。

(甲辰五月六日) 

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