2006-10-08 愛の路 詩 石川啄木 高きに登り、眺むれば、 乾坤《けんこん》愛の路通ふ 青海原のはてにして、 安らかに行く白帆影。── 波は休まず、撓《たゆ》まずに 相噛《か》みくだけ、動けども、 安らかに行く白帆影。 路のせまきに、せはしげに 蠢《うご》めく人よ、来て見よや、── 花を虐《しひた》げ、景《けい》を埋《う》め、 直《すぐ》なるみちをつくるとて、 狭き小暗さ愁嘆《しうたん》の 牢獄《ひとや》に落ちし子よ、見よや、── 大海みちはなくして、縦横《じうわう》の みちこそ開け、愛の路。 (九月十四日) 目次に戻る